新型コロナウイルス(新型肺炎)で、米ドル/円はどう動くのか?日本では、為替や投資の話をする段階ではないかもしれませんが、投資家にとっては「新型コロナウイルス(新型肺炎)」も、為替が動く大きなトピックスです。今後の、新型コロナウイルス(新型肺炎)による為替変動を予想します。
新型コロナウイルス(新型肺炎)の状況
執筆時点:2020年3月7日
- 世界感染者数:97844人
- 死者数:3312人
- 日本感染者数:1066人
(内訳 日本国内360人+クルーズ船706人)
です。
これだけ見れば、日本ではまだ警戒しなくても良いレベルだと思ってしまいますが
しかし、ご存じの通りで日本では
- 感染経路が不明な感染者が増えてきた
- 武漢に関係のない患者は、検査すらされていない
ため、隠れた感染者が、数千人、数万人いても、おかしくない状況が日本でも発生してしまったのです。
2020年2月16日に首相官邸で開かれた「新型コロナウイルス感染症対策本部」でも、
国立感染症研所長
「国内発生の早期というのが共通認識。SARS(重症急性呼吸器症候群)、MERS(中東呼吸器症候群)に比べると、無症状や潜伏期の患者からの感染があり、感染を止めるのが難しい」
としています。
1月の段階であれば、為替で注意しておくべきは中国人民元と各国通貨の関連性でした。
人民元/円
出典:Yahoo!ファイナンス
2020年1月20日、病原体を調査している中国・国家衛生健康委員会(NHC)専門家グループ長の鍾南山は、広東省でヒトからヒトへの感染が確認されたと発表されました。
この発表後、人民元は下落し、2月に入り、リスクが織り込まれ、ある程度の対策が出てきたところで、持ち直しています。
日本円に対する1カ月間の騰落率
出典:サヤトレLS
中国経済の影響が大きいオーストラリア、ドイツ(ユーロ)が中国の影響を受けて、下落していることがわかります。
オーストラリア、ドイツは、対中国の輸出国1位、2位であり、中国の需要に応じて、経済が左右されてしまいます。これを危惧した投資家が、新型コロナウイルス(新型肺炎)懸念で、ユーロ、豪ドルを売っているのです。・
逆に日本円は、リスクオフによる円高基調であるため、どの騰落率も、マイナスになっています。
日本でも、武漢と同様のパンデミックが起きた場合、為替相場はどうなるのか?
日本国内で市中感染が拡大している可能性
前述した通りで、日本では
厚生労働省「新型コロナウイルスに関するQ&A」
令和2年2月16日時点版
問1 診断基準はなんですか?
感染が疑われる患者は、37.5℃以上の発熱かつ呼吸器症状があり、
- 発症前14日以内に湖北省または浙江省に渡航あるいは居住していた人、
- 発症前14日以内に湖北省または浙江省に渡航あるいは居住していた人と濃厚接触歴がある人
をいいます。
診断方法は、核酸増幅法(PCR法など)があります。実際には、昨今の国内外の発生状況を踏まえ、これらの地域に限定されることなく、医師が新型コロナウイルス感染症を疑う場合に、各自治体と相談の上で検査することになります。その際は、疑似症として保健所に届け出後、地方衛生研究所または国立感染症研究所で検査することになります。
まずはお近くの保健所にお問い合わせください。
となっています。
- 湖北省または浙江省に渡航あるいは居住していた人
- 湖北省または浙江省に渡航あるいは居住していた人と濃厚接触歴がある人
しか、検査されない
ということです。
そのため、専門家も
山野美容芸術短期大学客員教授 医学博士中原英臣氏
「日本は積極的に検査をしないことで患者数を増やしていないという側面もある。そのため実際の感染者がどれだけいるのか推定するのは難しいが、数千、数万人という患者がいてもおかしくはない」
前WHOコンサルタント 高橋央医師 バンキシャでの発言
「日本には既に数千人規模で新型コロナウィルスの感染者がいるだろう」
と、すでに日本では、検査が行われていないだけで「数千人規模の感染者がいる」と警告しています。
政府は、まだ「国内発生の早期」としていますが、この発生状況が引き上げられるのは、時間の問題ではないでしょうか。
もし、武漢と同様の状況が東京で起こるとしたら
武漢で行われている対策
- 観光地やホテルは大きな催し物を延期
- 図書館や美術館、劇場なども展示や公演を中止
- 市内地下鉄、市内バス、船、長距離バス、鉄道、飛行機、全ての交通機関がストップ
- 道路封鎖
- 武漢から出ることを制限
- 武漢に隣接する黄岡市、鄂州市も市内の交通をストップ
- 会社も機能停止
- 交通がマヒする
- 会社の機能が停止する
のですから、日本経済には大打撃どころではないダメージがあるのです。
新型コロナウイルス(新型肺炎)で為替相場はどうなるの?
これと似たような状況は、東日本大震災です。
首都圏の機能が停止したことが記憶に新しいかと思います。
このときの為替の状況を見てみると・・・
東日本大震災時の為替相場
過去のSARSの時はどうなったかというと・・・
SARS流行時の為替相場
なぜ、円高になったのか?
理由その1.円の所有者が手元に円を持つため
日本在住の日本人投資家が外貨で資産運用していた場合、有事が起きたときに手元に資金(現金)が必要と考えて、「円買い」をした。
理由その2.キャリートレード
キャリートレードとは?
を言います。
低金利の通貨と言えば、日本円であり、流動性も高いため、キャリートレードで良く利用される通貨なのです。
- 円キャリートレードのポジションを建てる = 日本円を借りる「円売り」が発生する
のですが、リスクオフの相場ではポジションを手仕舞う動きになります。
- 円キャリートレードのポジションを解消する = 日本円を返済する「円買い」が発生する
理由その3.「有事の円買い」のアノマリーを狙ったトレード
上記2つの理由で、かなりの確率で
というアノマリーが投資家には知れ渡っています。
アノマリーに乗っかった「円買い」がさらなる「円高」を引き起こすのです。
今回のコロナウィルスでは「アノマリー」が通用しなくなっている!?
最新の米ドル/円のチャートを見てみると・・・
アノマリーでは
なのですが、今回は
- 日本自体がコロナウィルスのパンデミックのど真ん中にいること
- パンデミックによるリスクが予想できないこと
- 米ドルの経済指標が良かったこと
が要因で「円安」が加速しているのです。
となっていました。
しかし、2月21日以降は、逆に「円高」になり、米国が利下げを発表した3月2日以降、「円高」が加速しています。
簡単に言えば
でしたが、2月21日以降、イラン、イタリア、韓国など世界各国で日本よりも感染者数が急増する事例が出てきた
となったのです。
- 欧米とは違って、マスクをする習慣がある
- 感染者数がそれほど増大していない(実態は検査していないだけですが・・・)
- 皆保険制度が整っている
日本は、やはり安全資産として、まだ価値があると、外国人投資家は判断したのではないでしょうか?
この状況に拍車をかけたのが
- 米国の緊急利下げ
です。
投資家の資本も、金利の低いところから、高いところへ向かうので、米国が利下げすれば、当然、ドル安になり、円高が進むことになります。
しかも、3月5日は、米国クルーズ船「グランド・プリンセス」で集団感染の疑いが出てきました。
日本と同じ状況になれば、皆保険制度がなく、医療費が高い米国でより感染が進むことが予想され、ドル安が一層進み、円高になる可能性があります。
想定されるシナリオ
- ウィルスが自然消滅する(抗体を持つ人が増える)
- ウィルスに対応できる治療法、治療薬が開発される
- ウィルスの世界への拡大が止まらない
というシナリオが想定されますが・・・
- ウィルスが自然消滅する(抗体を持つ人が増える) → リスクオンによる「円安」
- ウィルスに対応できる治療法、治療薬が開発される → リスクオンによる「円安」
- ウィルスの世界への拡大が止まらない → 世界の感染が進まず、日本の感染が拡大する「円安」
- ウィルスの世界への拡大が止まらない → 世界の感染が進み、日本の感染が終息する「円高」
という想定が可能です。
また、考慮しなければならいのは
世界各国は、まだ利下げで経済危機に対応する余地があるのに対して、日本は、すでにマイナス金利と大量の国債買い入れを実行しているため、余地がほとんどないということです。
世界の感染が進めば進むほど、世界経済に与える影響が大きくなり、世界各国は景気回復のための「利下げ」を行います。日本だけが「利下げ」できないのですから、相対的に「円高」になってしまうのです。
- 感染が発生した地域 → 「通貨安」
- 利下げを行う国 → 「通貨安」
になる可能性が高いため、常時、新型コロナウィルスのニュースはチェックしておく必要があります。