米連邦準備制度理事会(FRB)は2018年6月13日に今年2回目の利上げを実行しました。欧州中央銀行(ECB)は2018年6月14日に量的緩和の終了をけっちしました。日銀の黒田総裁は2018年6月15日に会見で金融緩和継続の意思を公表しました。日銀だけが金融正常化にとりのこされた格好になっていますが、このことはFX・為替相場に対してどのような影響を与えるのでしょうか?今回は、金融緩和政策とFX・為替相場について解説します。
金融緩和政策によるFX・為替相場予想の基本
金融緩和と株価の関係
米国市場の長短金利と株価の推移(過去30年)
出典:米国株式=S&P500指数、Bloombergより楽天証券経済研究所作成
日米の2年金利の金利差と米ドル/円の為替推移
出典:楽天証券経済研究所が作成
この2つを見てわかることは
ということです。
米国市場の長短金利と株価の推移(過去30年)
を見ていただければわかる通りで
政策金利を引き上げたタイミングと連動して、株価が大きく下がっています。
政策金利・長期金利:上昇 = 株価低下
という形になる気候があります。
だからこそ、日本でも、株価を上昇させるためにゼロ金利政策・量的緩和・マイナス金利などの金融政策を展開しているのです。
一方、日米の2年金利の金利差と米ドル/円の為替推移を見ると
きれいに
金利差が大きくなれば = ドル高
という傾向になっています。
これは当たり前ですが
と考えます。
日本も、米国も、国としての信用度は同じぐらい大きいのですから、「日本円」「米ドル」どちらも安全資産として投資家は考えています。
金利が「米ドル」の方が高ければ、「日本円」から「米ドル」にお金が流れる → 円安/ドル高
という傾向があるのです。
金融緩和政策を取れば、金利は低下するのですから
というのはシンプルなロジックなのです。
日本:金融政策継続(ゼロ金利政策)
米国:金融政策終了:テーパリング(だんだん利上げ)
なら、徐々に金利差は拡大していく一方なので「円安/ドル高」が進む
日本:金融政策終了:テーパリング(だんだん利上げ)
米国:金融政策終了:テーパリング(だんだん利上げ)
なら、金利差は拡大せず「円高/ドル安」が進む
という形で、ファンダメンタルズ分析をしながら、長期の保有ポジションを形成することができるのです。
2018年6月の日米欧の金融政策の動き
2018年6月は、日米欧での金融政策の動きが大きくなりました。起こったことを時系列で紹介します。
2018年6月13日
米連邦準備理事会(FRB):政策金利引き上げ
フェデラルファンド(FF)金利誘導目標を0.25%引き上げ、年1.75%~2.00%に設定した。
さらに今後の金利引き上げ予定
2018年内:2回
2019年:4回
2018年6月14日
欧州中央銀行(ECB)が量的緩和(QE)終了を決定
現在の量的緩和(QE):月300億ユーロ(約4兆円)
10月以降:150億ユーロに減額
年末:打ち切り
ただし、金利の引き上げは2019年夏までは行なわない見通し
2018年6月15日
日銀:金融政策の維持を決定
上記の期間の為替変動
米ドル/円(1時間足)
ややドル高
ユーロ/円(1時間足)
大幅なユーロ安
ユーロ/米ドル(1時間足)
大幅なユーロ安
という結果になっています。
考察
欧州中央銀行(ECB)は金融政策を終了させたのにも関わらず「金利は2019年夏まで維持」と金利の維持を表明しているからです。
利上げがなくて、米国の利上げは2018年2回、2019年4回が予定されているので
ユーロ金利と米国金利の金利差が拡大するのがほぼ決定的
となっているのです。
現在の欧州中央銀行(ECB)の政策金利は主要政策金利が0%、下限の中銀預入金利はマイナス0.40%です。
量的緩和を終了させたからと言って、マイナス金利は維持ということになれば、本当の意味での金融緩和政策の終了とはなっておらず、金利差の拡大の方が目立ってしまい、ユーロが売られて、ユーロ安になっている現状です。
対日本は、それほど意識されておらず、ユーロ全面安の影響で、ユーロ/円も、ユーロ安になっているだけのことです。
ある程度市場では織り込み済みのものであったことが影響しています。また、それでもドル高にはなっていて、日本円が意外に検討しているというだけです。
例えば
豪ドル/米ドル
大幅なドル高
英ポンド/米ドル
大幅なドル高
と、ドルは全面高という傾向になっています。
米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ背景
パウエル議長
景気について前回の「緩やかに拡大」から「着実に拡大」と表現を強めた。
「投資は力強く伸び続けており、全体的に成長の見通しは良好なままだ。」
と景気・物価両面で自信を示し、米国経済の好調とともに利上げペースを早める判断をしました。
年内の合計利上げ回数の見通しは、従来の「年3回」から「年4回」に改め
- 今年残り2回
- 来年4回
という利上げタイミングを発表したのです。
米国失業率
欧州中央銀行(ECB)の量的緩和終了の背景
ユーロ圏GDP(前年比)
ユーロ圏失業率推移
これだけの好調の要因があるのですから、ユーロ参加国からは金融正常化を求める意見が増えてきていたのです。
ドイツのメルケル首相
「すべてのユーロ圏加盟国は再び成長に向かっている。しかしECBの金融政策は、われわれが望む状態に戻っていない」
これらの声の高まりと、好景気の維持を受けて、欧州中央銀行(ECB)も重い腰を上げた。という形になります。
ドラギ総裁発言要旨
「最新の経済指標や調査は弱めの結果が出ているものの、底堅く裾野の広い現在進行中の成長と依然一致している。」
「域内の物価圧力を一段と押し上げ、中期的な総合インフレ動向を支えるため、なおかなりの金融刺激策が必要だ。」
「そのため金利に関しても「少なくとも2019年夏まで(現水準にとどまる)」とした。」
「利上げを実施すべきか、さらに利上げ実施の時期について討議しなかった。」
・・・
「ハト派か、タカ派か、どっちだよ!」
とツッコミどころが満載ですが・・・
直近の経済指標は悪いものの、長期的に見れば好景気と判断して良いので、量的緩和は終了します。
ただし、
利上げは議論すらしていない
2019年夏までは金利を維持する
と、どっちつかずのバランスを保った今回の決定となっています。
実は、この量的緩和終了には別の意味もあるのです。
ドラギ総裁発言要旨には
「(イタリアとユーロ離脱の可能性について聞かれ)不可逆的なことが存在するかどうかを議論するのはまったく割に合わない。それは損害をもたらすだけであって、双方に同じことが言える。以上だ。」
「保護主義に関する問題はこれまでになく喫緊の課題となっており、既存の多国間枠組み内での議論は、その対応の性質を巡る議論と同じくらい重要といえる。というのも第二次大戦以降、われわれの存在や繁栄に寄り添ってきた多国間枠組みを覆せば、われわれは非常に深刻な被害をこうむることになるからだ。実際、われわれの祖先はそうした経験をしており、それを繰り返す必要はない。」
「ユーロ圏の成長見通しに対するリスクは引き続きおおむね均衡している。だが、保護主義高まりの脅威など、国際情勢に絡む不透明要因は顕著となってきている。」
等が含まれています。
「ポピュリズム政権」というのは
- 大幅減税
- 移民排斥
- 関税強化
- EU離脱
などを掲げる政権のことで、わかりやすい例はトランプ政権です。
EUの中でも、南欧の経済力の弱い国を中心に、「ポピュリズム政権」が台頭しているのです。
EU離脱国が増えれ増えるほど、EUという枠組み自体が継続不可能になっていきます。
これを回避するためには
ということを対外的に強く打ち出すタイミングでもあったと考えられています。
しかし、実情は、まだまだユーロの経済は好調とは言い難く、ドラギ総裁も自分で一致るように直近の経済指標では、成長が鈍っていることが明らかになっています。
だからこそ、「金利面では維持」という金融緩和政策の継続の意味合いを強めたのです。
- 量的緩和 → 終了:タカ派的な見解
- マイナス金利 → 維持:ハト派的な見解
のバランスを取った、今回の発表となったのです。
実務的にも、これ以上国債を買おうとしても、市場に出回っていない品薄の景気の良いドイツ国債ではなく、市場に有り余っている景気の悪いイタリアなどの国債を買わざるを得なくなってしまうため、これ以上の量的緩和は不要と結論付けたのだと考えられます。
日銀の金融緩和政策継続の背景
日銀の黒田総裁の発言
米欧では金融政策の正常化が進んでいます。日本だけが「おいてけぼり」との指摘もあります
「各国の金融政策はそれぞれの国の経済・物価動向に即して適切に進められるべきで、欧米でも適切に進められている。我が国の場合は、持続的な成長のもとで労働需給も引き締まり、需給ギャップもタイト化しているが、物価の上昇率はなかなか上がらない。やはり、現在の強力な金融緩和を粘り強く進めていくことが、日本にとっては適切だ。(米欧と日銀の政策の)方向性が異なっているのは、(それぞれの)経済・物価の状況を反映したためだろう」
米欧に比べて、日本はなぜ物価が上がりづらいのでしょうか。日本独特の事情があるのでしょうか
「我が国独自の特殊要因として、やはり1998年から2013年まで15年続いたデフレと低成長が、一種のデフレマインドとして企業や家計に残っていることがある。そのため、中長期の予想物価上昇率がなかなか上がってこない。これは欧米にはない要素だと言えると思う」
先進国で物価が上がりにくい共通の理由はありますか
「様々な議論がある。たとえば『アマゾン効果』。これまで消費者がモノを購入するマーケットは地理的に制約されていた。だが、今は、消費者がインターネット上で全世界のモノやサービスの価格を比べたうえで購入できるようになり、モノやサービスの価格が上がりにくくなっているのでは、という議論だ」
と言い訳ばかり言っている印象になってしまいますが・・・
全国消費者物価指数(CPI) [前年同月比]
と実際に物価は一向に上向く気配がないのが現状です。
しかも、日銀の金融緩和政策には大きな問題があります。
量的緩和では
- 米連邦準備理事会(FRB) → 国債の買い入れ
- 欧州中央銀行(ECB) → 国債の買い入れ
- 日銀 → 国債の買い入れ、ETF(上場投資信託)やREIT(不動産)の買い入れ
という違いがあります。
日銀が株を買うから、日本株が上昇
日銀が不動産を買うから、不動産価格が上昇
と、無理やり「株高」の好景気の演出をしているようなものです。
日銀の総裁は、安倍首相が決めるのですから、政権の意向に即した金融政策を実施してしまう傾向にあり、このような惨状となっています。
さらに
GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は国内債券の運用比率を減らし株式運用比率を倍増させました。
日銀に作られた株高に呼応して、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の累積収益額は+69.0兆円にも及んでいます。
これだけ見れば、年金の財源が増えているのですから、「よくやった。」という話ですが・・・
作られた株価を保有しているのですから、仮に日銀が金融緩和政策で株式の購入を停止すれば、巨額の損失が発生してしまいます。
国債には償還期間が設定されているので、持っていれば、どんどん国債は減っていく「出口」を描きやすいのですが、株や不動産は「出口」は「売る」しかありません。
売れば、株価も、不動産価格も、下がり、景気は後退し、物価も下落する可能性があるのです。
日銀は「出口戦略」を描けない袋小路に追い込まれている
のが現状です。
当面は、金融緩和政策の停止ができないのです。
しかしながら、すでに2018年末には日銀の国債保有率は6割を超えるとされています。国債買い入れを続けようにも、買うものがなくなってしまう可能性が高いのです。
日銀が一番、金融緩和政策で窮地に立っているのは間違えありません。
今後のFX・為替相場予想
ほぼ確実にわかっていることは
- 米連邦準備理事会(FRB):利上げを年4回ペースで行う
- 欧州中央銀行(ECB):利上げは2019年夏までしない
- 日銀:利上げは、少なくとも1年~2年はできない
という状況です。
すでに投資家に織り込まれているところも多いのですが・・・
お金は、金利の低いところから高いところに流れるので
- ドル高
- ユーロ安
- 円安
という状況がさらに拡大する可能性が高い
と考えられます。